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東京高等裁判所 昭和34年(ネ)402号 判決 1959年10月27日

控訴人 被告 東京国税局長

訴訟代理人 田中勝次郎 外六名

被控訴人 原告 鈴や金融株式会社

訴訟代理人 栗山茂 外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、認否は原判決の事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

(一)、被控訴会社は金融業並びに不動産及び有価証券の保有を目的として設立された所謂株主相互金融会社であり、その事業内容は「(1) 会社は増資によつて自己の株式を発行する。(2) 増資新株は一括して或株主(主として会社の社長)が一手にこれを引受け更にこれを広く大衆に譲渡する。(3) 株式の譲受希望者には原則として前記の株主が自己の持株を日賦又は月賦で譲渡するが、この際会社は譲受希望者との間に立つて譲受を斡旋する。(4) この場合、株式を譲渡した者が譲受人から直接日賦又は月賦による株式代金の支払いを受けることの煩を避けるため、ひとまず譲渡人に対し会社が株式の代金の全額を立替払し、譲受人は立替人たる会社に対して日賦又は月賦で代金を弁済する仕組になつている。(5) 株式を譲受けた者は、その代金を完済したときは会社から額面金額の三倍の融資をうけることができる。(6) 株式を譲受け、且その代金を完済した後も(5) の融資を受けない者に対して被控訴会社は株主優待金名義で一定の金銭を支払う。」というものであること。

(二)、被控訴会社は昭和二十七年一月から昭和二十八年三月までの間(以下第一期という)に金四千六十一万七千二百五十八円、また同年四月から六月までの間(以下第二期という)に金千四百八十八万七百三十円の金員を、それぞれ株主に対し優待金名義で支払つたところ、日本橋税務署長は、右優待金が所得税法第九条第一項第二号の法人から受ける利益の配当に該当するから、被控訴会社が所得税を源泉徴収すべきものとして、第一期分については昭和二十八年九月十一日付で源泉徴収所得税額を金八百十二万三千四百五十一円、源泉徴収加算税額を金二百二万九千二百五十円と決定して同月十九日被控訴会社に通知し、第二期分については同年十月三十一日付で源泉徴収所得税額を金二百九十七万六千百四十四円、源泉徴収加算税額を金七十四万三千五百円と決定して同年十一月六日被控訴会社に通知したこと。

(三)、被控訴会社は右各決定に不服だつたので、第一期分の決定については同年十月九日、第二期分の決定については同年十一月九日日本橋税務署長に対しそれぞれ再調査の請求をしたところ、同署長は同年同月二十四日付で右請求をいずれも棄却し、同月三十日これを被控訴会社に通知したこと。

(四)、被控訴会社は更に同年十二月二十八日、控訴人に対し右税務署長のした各決定につき審査の請求をしたところ、控訴人は昭和三十二年三月五日付で右各請求をいずれも棄却し、その旨同月七日被控訴会社に通知したことはいずれも当事者間に争いがない。

そこで右(二)の日本橋税務署長のなした行政処分が被控訴人の主張するような違法のものであるか否かについて判断する。

被控訴人は前記株主優待金は所得税法第九条第一項第二号所定の配当に該当しないと主張し、控訴人は右規定にいわゆる配当とは商法上の配当に限らず、およそ法人の純資産が出資者に利益を与えることによつて減少する限り出資者に対する利益の授与は総て右法条にいう配当と解すべきであると主張するのであるが、株式会社に関する限り(本件が株式会社のした株主に対する優待金の支払であるから株式会社に限定して推論する。)右法条にある利益の配当とは商法第二百九十条第一項の規定する利益の配当を、また利息の配当とは同法第二百九十一条所定の利息の配当をそれぞれ意味しているものと解するのが相当である。けだし憲法を頂点におく同一法体系の下においては、同一用語は格別の理由がない限り同一の意味に解することを原則とするのであつて、所得税法上右の用語について、商法と異る定義づけをした明文なく、株主優待金は同法第九条第一項第二号に当らないとしても同条同項第十号の所得として課税し得るのであり(ただ右第二号の場合は源泉徴収の対象となり第十号ではその対象とならないという差はあるがそれは本件の解釈論の根拠となるものではなく、若し株主優待金も利益配当金と同様源泉徴収の方が便宜であるとするならそれは所得税法の改正について考うべき立法論上の問題である。)所得税法の全般にわたつて考えてみても、右用語を商法と別異に解釈すべき格別の理由は見出されないからである。(商法の違反行為、脱法行為の防止は税法以外別途に考慮せられるのであり、株主優待金は法人所得計算上損金にならないとしても損金にならないものはすべて前記第二号に含まれるものとは限らず、同第十号にあたる場合もあり得るから、右の点から前記解釈に反論することはできない。)従つて右第二号にいう利益の配当とは株式会社が決算期において損益勘定の上純利と認定された額の内から法定準備金等を控除した残額を株主総会の決議を経て株主に対してなす配当を指し、本件のごとき会社の前記事業内容(6) に示された仕組の下に会社が株主に対して為す優待金の支払いなどは含まれないものといわねばならない。控訴人は商法第四百八十九条第三号が「法令又ハ定款ニ違反シテ利益又は利息ノ配当ヲナシタルトキ」と規定しているから商法上の利益の配当とは同法の要件にしたがつた適法な株主総会を経た利益の配当のみとは解し得ないと主張するが、同条は本来商法上の利益の配当に該当するものであり、従つて法令又は定款に基き本来株主総会の決議に付すべきであるのに取締役が右決議に付することなくして利益の配当を敢行した場合その手続の違背を責める規定で、この場合商法にいう「利益の配当」に該当すべき実体を具備しないものまでも制裁するのではない。法令又は定款所定の手続をかくにしても実体的には手続の不備を補えば利益の配当たる実をそなえている以上その配当利益も所得税法第九条第一項第二号の課税の対象となり得ること勿論であつて、この理は利得が闇利得のような不法の利得であつても課税の対象となり得るのと同様であり、この規定が商法にいう「利益の配当」の実体的内容までも変改するものではないから、前段認定の被控訴会社の事業内容(特にその(6) )により予め定められた一定条件をみたした株主に等しく交付される本件優待金(商法の前記各規定に該当しない。)の支払いが右罰則規定のあるため商法上の「利益の配当」に当るものと解すべき理由のないことはいうまでもない。そうだとすれば前示(二)の日本橋税務署長の決定は所得税法第九条第一項第二号に基く源泉徴収の対象となりえない右優待金を、これに当るものと前提してなされた違法のものというべく、従つてこの点の再調査の請求を棄却した同署長の決定並びにこれを正当として被控訴人の審査の請求を棄却した控訴人の前記(三)の処分も亦違法のものといわねばならない。

そうだとすれば控訴人の為した右(三)の処分の取消を求める被控訴人の請求は正当であるからこれを認容すべく、これと同旨に出た原判決は相当であつて、本件控訴はその理由がない。仍て民事訴訟法第三百八十四条第九十五条第八十九条に基いて主文のとおり判決する。

(裁判長判事 梶村敏樹 判事 岡崎隆 判事 堀田繁勝)

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